スタートアップ、 PMF と語られる事が少ない PCF (プロダクトチャネルフィット) 、PMF前の最優先事項

2022年01月13日

こんにちは。アメリカのとあるユニコーン スタートアップで、アメリカ市場のグロースを担当している森 康祐です。グロースの本質について興味がある方はこちらを読んでみてください。

今回の投稿は用語整理的な意味も兼ねて、6年間ほどシリコンバレーのスタートアップシーンにどっぷり浸かってみた私なりの、スタートアップの成長と PMF (プロダクトマーケットフィット) についての解釈をまとめようと思い書いています。

・言葉の定義付け
・スタートアップとビジネスモデル
・スタートアップの失敗要因
・そこに市場はあるのか
・プロダクトマーケットフィット (PMF)
・それは PMF か Hype か
・PMF の盲点 – 語られる事が非常に少ないプロダクトチャネルフィット (PCF)
・プロダクトの ARPU と適正チャネルの関係性
・PMF と PCF 前のスタートアップとしての最優先事項
・PMF と PCF 後の世界

言葉の定義付け

かなりドライな内容ですから、賛同いただけない方もいるかもしれません。ご自身の信念と合致しない場合もあるかもしれません。ただ、アメリカで突出した事業を生み出している多くのスタートアップや企業は、この思想で事業を作っていると結論づけて良さそうかなと思っています。(もちろん別の意見にもオープンです!是非あなたなりの解釈をコメントしていただければ幸いです。)

■スタートアップとは

・拡張性のある市場で、再現性のある複利の成長を実現できるビジネスモデルを創出するための組織

■ビジネスモデルとは

・ユニットエコノミクス 1 以上を継続的に実現できる座組のこと
・どのような価値を提供するのか
・いくらでその価値を販売するのか
・どのように流通させるのか
・コスト構造
・どのように上記4つのバランスをとり、利益を生むのか

■良いマーケットとは

・拡張性のある十分に大きい市場

■プロダクトマーケットフィット (PMF) とは

・市場が直面している課題 (ニーズ) をあなたの事業を通じて解決することが出来且つ、 利用者が課題解決をあなたの事業に頼る状態になること

■プロダクトチャネルフィット (PCF) とは

・特定の流通網が安定的/効率的にターゲットユーザーを連れてこれる状態のことで、ユーザーがどこでどのようにプロダクトを見つけ、使い始めるのかという導線がしっかり機能していること

■PMF と PCF を突破できるチームとは

・PMF と PCF に関わる5つの要素を仮説ベースで捉えることができ、その検証をすることに全てを集中できる組織

スタートアップとビジネスモデル

スタートアップ、ベンチャー、スモールビジネスなど、中小規模の事業体を指す言葉はたくさんあります。その中でもスタートアップは拡張性のある市場で、再現性のある複利の成長を実現できるビジネスモデルを創出するための組織と定義できます。

Y Combinator の共同設立者である ポール・グレアムは Startup = Growth と題した記事で「スタートアップとは急成長をするために設計された組織である」と書いています。

”A startup is a company designed to grow fast.” – Paul Graham
– スタートアップとは急成長をするために設計された組織である –

意図的に早く成長させることにコミットするという言葉そのものの意味合いと、「多くの人が欲しがるものを作り、その人たち全員に行き渡らせる(拡張性のある市場)」ことにコミットという2つの意味があります。(加えて「早く成長しない限り資金ショートして沈没する運命」だからという大前提も)

当たり前ですが、いつのひか、ビジネスとして成立しなければいけません。資金がショートするまでにユニットエコノミクス 1 以上を継続的に実現できる座組を見つけださなければいけないのです。

これの対比としてのスモールビジネスやベンチャー企業は「既に証明されたビジネスモデルのもと、手に届く限りの顧客に効率的にリーチし、サービスを提供すること」を実現するための組織で、必ずしも急成長のための巨大な市場を捉える必要はないのです。(喫茶店開業など)

スタートアップの失敗要因

素晴らしい「アイデア」を引っさげて始めた事業は、95% のスタートアップは失敗すると言われる現実に直面することになります。

Why do startups fail? という CB Insights の有名な記事で、スタートアップの主な失敗要因は資金ショート (38%), 市場ニーズ無し (35%), 競合負け (20%), 欠陥のあるビジネスモデル (19%) という統計がでていますが、市場のニーズを満たす確信のあるアイデアをもって事業をスタートしたはずなのに、市場があなたのプロダクトを求めていなかった (市場のニーズを満たす問題解決策を提供できなかった。) という理由がトップに来るのは、特に注目すべきことかと思います。つまりは多くのスタートアップにおいて、素晴らしいアイデアで市場のニーズを満たすことができるという当初の憶測が間違っていたということ。

資金ショート (38%) の原因はたいてい、確信のあるアイデアでも投資家を説得できなかったことと、ビジネスモデルに欠陥があった (利益を生み出せなかった) ことなので、一番多い理由とはいえ究極の理由とは言い難そうです。

*競合負けに関しては グロースの本質で多少触れています。

そこに市場はあるのか

ここでいう ”市場ニーズ無し” に含まれているかもしれませんが、そもそも、そこに十分なマーケット (市場) があるかを正しく見積もれていなかったことも一番の失敗要因として語られることが常です。Wealthfrontと Benchmark Capital の創業者であるアンディ・ラフレフは Welthfront のブログで「企業がの失敗の一番の原因はお粗末なエクセキューションではなく、市場が無いことである。」と述べていて、The market always wins という言葉もあるくらい、マーケットの有無がスタートアップの運命を決めるといって過言ではありません。

“Lack of market, not poor execution, was, and still is, the primary cause of company failure.” - Andy Rachleff
– 昔も今も、企業の失敗の一番の原因はお粗末なエクセキューションではなく、市場が無いことである。-

**タイミングが全てという捉え方もあります、ここではそれを「マーケットがあるかどうか」に含めます。

プロダクトマーケットフィット (PMF)

プロダクトマーケットフィット (PMF) とは、市場が直面している課題 (ニーズ) をあなたの事業を通じて解決することが出来且つ、 利用者が課題解決をあなたの事業に頼る状態になることで、最も重要なマイルストーンのひとつ。生死の分かれ目です。「 PMF が無ければ成功はない」とも言われます。

PMF の重要性と意味は多くの著名人が説いており、恐らく一番有名なのはネットスケープと a16z の創業者であるマーク・アンドリーセンが The only thing that matters と題した記事で書いた以下のものがあります。

“Product/market fit means being in a good market with a product that can satisfy that market.”
– プロダクトマーケットフィットは、良い市場においてその市場のニーズを満足させることができるプロダクトを提供できていることである –

“The only thing that matters is getting to product/market fit.”
– スタートアップの成功の絶対条件は、プロダクトマーケットフィットにたどり着けるかどうか –

PMF に至ったかを見極める指標は、PMF のコンセプトが重要視され始めてから15年たった今でも確固たるものはありません。ただ感覚としては明確だと言われています。

短く言うと、「 PMF があれば肌でわかる。その状況でないうちは PMF は無い。」

”You can always feel when product/market fit isn’t happening. The customers aren’t quite getting value out of the product, word of mouth isn’t spreading, usage isn’t growing that fast, press reviews are kind of “blah”, the sales cycle takes too long, and lots of deals never close.”
PMFがない状態はその場でわかる。利用者はプロダクトから価値を得ていないし、口コミも広がらず、利用率や頻度も急成長しない。メディアの評価も中身がないものばかりで、長すぎるセールスサイクルの末に全然受注はとれない。

“And you can always feel product/market fit when it’s happening. The customers are buying the product just as fast as you can make it—or usage is growing just as fast as you can add more servers. Money from customers is piling up in your company checking account. You’re hiring sales and customer support staff as fast as you can. Reporters are calling because they’ve heard about your hot new thing and they want to talk to you about it. You start getting entrepreneur of the year awards from Harvard Business School. Investment bankers are staking out your house. You could eat free for a year at Buck’s.”
PMFに至ったときも明確に感じ取れる。リリースした直後に全て売れていき、改善した分だけ利用率も頻度もあがって追いつかない。利用者からの売上が口座に積み上がっていって、何人営業やCSを雇っても足りないくらい。メディアからの連絡は鳴り止まないし、投資家が家までついてくる (一部省略) The only thing that matters より

それは PMF か Hype か

ただし、PMF に至ったと感じたときには、今受けている追い風は良いマーケットに対して良いプロダクトを提供できている結果なのか、それとも一過性の Hype によるものなのかを必ず検証すべきだと思います。

例えばテッククランチに大々的に取り上げられたとしても、作られた Hype は一瞬にして消え去るということが繰り返し実証されていて、Hype に頼ることが非常に危険なことはわかっています。(皮肉も込めて Techcrunch Bumpと言ったりします。)

プロダクトのチャーンレート (Churn Rate) が高く、NPS スコアが低く、Paid ユーザーが伸びていない状態では「マーケットの課題 (ニーズ) をあなたのプロダクトが解決できている」とは到底判断しがたく、数人のパワーユーザーにどんなに愛されていても極小の SOM: Serviceable Obtainable Market (あなたの事業が現実的に現時点でアプローチできる母集団及び市場規模) だったり、CAC (顧客を獲得するために費やしたコスト) が高額で初期のユーザーを見つけるのに苦労する場合は、良いマーケット(拡張性のある十分に大きい市場) にいるとは言えないからです。

PMF の盲点 – 語られる事が非常に少ないプロダクトチャネルフィット (PCF)

PMF の盲点は「マーケット」という言葉があまりにも曖昧なことと、プロダクトを流通させる難しさを全く加味していないこと。

プロダクトチャネルフィット (PCF) とは、特定の流通網が安定的/効率的にターゲットユーザーを連れてこれる状態のことで、ユーザーがどこでどのようにプロダクトを見つけ、使い始めるのかという導線がしっかり機能していることを意味します。冒頭に説明したとおり、ユニットエコノミクス 1 以上を継続的に実現できなければビジネスモデルとして成り立たないので、獲得コストが最低でも ARPU (アープ: ユーザー1人当たりの売上金額) とトントンにならなければ持続可能ではない。そして多くのユーザーに利用してもらうには、多くのユーザーにまず見つけてもらわなければいけない。それが広告であれ、口コミであれ、CAC は必ず発生します。その間口が「チャネル」です。

グロースの本質で触れたとおり流通網を見つけ出すことはプロダクト同等かそれ以上に重要なのです。どれくらいの重要度か、以下にまとめてみました。

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